東條正博
Masahiro Tojyo


Profile
(株)東条設計 代表
鹿児島市祇園之洲町15

1948 鹿児島市生れ
1967 県立鹿児島工業高等学校建築科卒業
    大日本土木入社
1971 明創建築設計事務所入社
1973 フリーランスとなる
1976 東条建築設計事務所設立 現在に至る



夢庵・柿右衛門



木花館



東町コミュニティセンター





桜島フェリー旅客待合所



まるき屋



トリアーテ妙円寺


1週間の予定で鹿児島県の取材に向かう。久々にかかったインフルエンザを、他人にうつしてなおってしまおうとの魂胆もあったが、結局、旅の間中、治らなかった。鹿児島でも、百を越える建築作品を見る予定だった。鹿児島の建築家に知人はなかった。雑誌記者の仲介で、建築家の東條正博さんに会った。東京に比べれば、遅い夕暮れ過ぎ頃に、指定の、天文館に近い鹿児島名産の黒豚料理専門店に行く。先に着いた私たちの前に現れた彼は、一見、温厚でハンサムという印象だった。話し始めても、その印象は変わらない。
その分、刺すように強烈なインパクトがある言葉はない。どちらかというと、必要以上の謙虚さを感じる。悪口の私とは、その点では距離があった。しかし、感覚の良さは、昼間取材した作品のそこここに現れていた。彼の事務所には、25人ものスタッフがいるという。アトリエ派と呼ばれる建築家の事務所のスケールは、既に通り越している。後日、訪ねて歩いた彼の作品を見ても、事務所経営のために自己が姿を消して、相手の要望に応えただけのものは少ないようだった。総てに合格点をつけるというわけにもいかなかったけれど、ともすれば、事務所経営に偏り、自己喪失型の事務所は良く見掛ける。事務所経営には2種類あって、事務所を大きくすることを一義とする型と、利益追及を捨て、物創りを楽しみ、自己表現を一義とする者とがいる。東條さんは後者なのだろうが、その意識が前者の目的も叶えて、大勢を抱える事務所に発展した、理想に近い事務所なのかも知れない。
私の一方的な推測である。私が、旅の中で期待するのは、後者の建築家たちに会える楽しみであることは言うまでもない。話題に、高崎正治さん設計の「なのはな館」のことが出た。私たちは、まだ、見ていなかった。雑誌で酷評されている記事もある。施主を納得させられる凄さに、東條さんは感心していた。作品の善し悪しについては明言を避けたようだった。まだ見ていない私には、何ともいえない。雑誌の写真だけで建築を判断することは、私には不可能である。だから、1万を越える作品を見て歩く作業も、必要と思うのである。

長い時間、様々な話をしたが、翌日から見る彼の作品のいくつかが楽しみだった。昼間見た「桜島フェリー旅客待合所」は楽しかった。若い感覚の、どちらかというと流行のデザインだったが、観光施設としての目的もある建物としては、華やかで結構、という印象だった。そばにある水族館などの方が無難に過ぎて、面白くなかった。
阿久根市近くの「東町コミュニテイセンター」を訪ねた。これは、多分に退屈になりそうな建物を、ファサードのグラフイカルな処理で見栄えのあるものにしていた。発想の勝利だろうが、最初から豊かな予算は無いものと思え、それでも何とか見栄えのあるものにするための努力は評価できる。創造は、経済の問題ではない、とするのが、私の基本的考えである。贅沢には見えなかったこの建築は、その点で私を納得させた。

2日後、指宿の「なのはな館」を見た。見た瞬間、連れの副編集長と「わぁ」と言ったが、全館歩き回ると、唐突なロケット型の部分以外は、驚く場所もなく、施工も良くて、悪質な建築とは思えなかった。酷評した人は、建築に全く見識のない人なのだろう、と解釈しておくことにした。ただ、この小さな町にこれほど大きな施設は必要なのだろうか、と思っただけである。同じ高崎さんの輝北町の「輝北天球館」も材料は違うが、ロケットのようなお尻が数本の柱の間に見えた。彼は、ロケットが好きなのかも知れない。東條さんの「感覚」とは、「間隔」があるかも知れないが、彼が好き勝手をしたらどうなるのか、一度見て見たいものである。彼のいくつかを見て、彼がかなり自己制御をしているのでは?と感じたからだが、いずれにしても、多くのスタッフを引き連れながらも、地域をリードして欲しい人であり、その器量もありそうである。
御馳走になった黒豚の店を、
「この店、嫌味のない良いデザインですね」
というと、東條さんは
「ありがとうございます」
といった。東條さんの仕事だった。満腹の体を連れて、外に出る。思っていたより鹿児島の夜は寒かった。不景気の街に、それでも華やいだ人声の幾つかがあった。


WORKS
1991 東シナ海公園展望所
1992 夢庵・柿右衛門
1993 ヒルサイドテラス岩崎谷
    アジア太平洋農村研修センター
1994 天文館にぎわい通商店街アーケード
    木花館
1995 鹿児島県治山林道協会会館
1996 鹿児島市医療技術専門学校
    東町コミュニティセンター
    鹿児島県フラワーパーク
1997 コンピューターテクニカルセンター
    桜島フェリー旅客待合所
1998 身体障害者通所授産施設・福祉ホーム
    まるき屋
    樟南高等学校学生寮
    トリアーテ妙円寺


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